研究概要 |
水田土壌のメタン生成反応を担う微生物群の中で,メタン生成共生系に焦点を絞り,培養法と分子生態学的手法を組み合わせて,その共生系を構成する菌群の特徴と働きを明らかにすることを目的とした。プロピオン酸および酢酸を基質とした培地に水田土壌を接種し,メタンを生成する共生系の培養液中の微生物群を解析した。変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法によりプロピオン酸を基質とした培養液から,Proteiniphilum acetatigenesに近縁な配列が得られた。P. acetatigenesはプロピオン酸の分解もメタンの生成も行わないが,プロピオン酸分解共生系に共存することにより,プロピオン酸分解とメタン生成を促進することが明らかにされており,水田土壌においても同様の共生的な相互作用が働いている可能性を示す結果であった。酢酸を基質とした培養液では,顕微鏡観察とDGGE解析の結果,1種類の真正細菌とMethanosacinaおよびMethanobacteriumに近縁な2種類のメタン生成古細菌が集積していた。分離した真正細菌A1株は16S rDNAの解析からDesulfovibrio vulgaris subsp. vulgarisに近縁な硫酸還元細菌であり,水素利用性メタン生成古細菌の分離株(AH1株)はMethanobacterium formicicumに近縁であった。A1株とAH1株を硫酸塩の非存在下で,乳酸,ピルビン酸,エタノールを基質として共培養するとメタンが生成したが,酢酸を基質とした場合にはメタンは生成しなかった。酢酸を基質とした集積培養液に存在するA1株とAH1株は,酢酸を共生的に利用してメタンを生成することはできないが,ピルビン酸や乳酸などから栄養共生的にメタンを生成することが明らかになった。
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