研究概要 |
大気由来の窒素沈着は土壌酸性化を促進する一方で,これに対して様々な酸緩衝作用が働く。スギ林下に発達した低木層を含む林床植生を刈取り,窒素動態を変化させることで,酸生成量および酸緩衝作用について検討し,風化や落葉の分解に伴う塩基の供給が土壌酸性化の緩和に対する寄与を明らかにすることを目的とした。刈取りにより林床植生の窒素吸収および水吸収が減少することで窒素溶脱量が増大するだけではなく,刈取り区において,刈取らない対照区に比べて地温が夏季には2℃ほど高くなり,窒素無機化活性も高まることでも窒素溶脱量が増大すると判断された。加えて,刈取り区における地温の上昇により溶存有機炭素移動量も増大し,これも窒素無機化活性に影響していることが示唆された。 増大した窒素溶脱量により窒素の形態変化に伴う酸の生成量も増大した。この窒素の形態変化に伴う酸の生成量とケイ酸溶脱量との間に最も高い相関関係が見られた。加えて,ケイ酸濃度とストロンチウム同位体比(^<87>Sr/^<86>Sr)との間に負の相関関係が見られた。^<87>Sr/^<86>Srは鉱物由来の成分により低下することから,風化の酸緩衝作用に対する寄与が示唆された。また,土壌表面に堆積している堆積腐植層(リター層)の交換態,全量抽出液中の^<87>Sr/^<86>Srを分析した結果,より分解の進んだ層ほど高かった。これは,^<87>Sr/^<86>Srの高い降雨の影響をより長時間影響を受けたためと推察された。本研究により酸緩衝作用における風化の寄与が示されると共に,土壌酸性化を緩和するリター分解に伴うカルシウム動態についても新たな知見が得られた。今後風化する鉱物や堆積腐植層からのCa供給の有無による風化の寄与に差が生じるかさらに研究を展開したいと考えている。
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