研究概要 |
抗腫瘍性酵素L-メチオニンγ-リアーゼは,現在すでに抗がん酵素として研究開発が進んでおり,実用性があるとされている。次世代型抗腫瘍性酵素として開発するに当たり,本酵素の詳細な構造的情報及びその機能の解明が望まれている。本酵素の立体構造を1.8Åの分解能で精密に解析し,特にこれまでに不明であったN末端領域部分の明瞭な空間的情報を提供することが可能となった。このことは,高機能化抗腫瘍性酵素創製のための大きな一助となると期待される。これらの知見から,本酵素の活性中心に補酵素ピリドキサール5'-リン酸(PLP)を中心とした水素結合ネットワークの存在が明らかになり,特にCys116残基は生理的基質であるL-メチオニンを基質とした場合のα,γ脱離反応に重要で,基質認識に大きく関与していることを見出した。また,この過程で得られたC116H変異酵素は,基質特異性が大きく変化し,β脱離活性を大幅に向上させ,His残基が反応に関わっているのではないかということを新規に見出した。 ところで,本酵素を抗がん剤として血中投与するにあたり,プロテアーゼ等によるストレスを受けることで失活することが考えられており,より安定な抗がん酵素開発に向け,低純度における本酵素がCys49-Phe50間で特異的に切断されることを見出した。今後,本酵素の抗原性の低下を目指したポリエチレングリコール修飾が期待される。 最後に,近年行われた放線菌Streptomyces avermitilisのゲノム解析によりL-メチオニンγ-リアーゼの遺伝子が同定された。この遺伝子配列を元に,一次構造解析を行うと共に,遺伝子クローニング及び発現,精製,速度論解析等を行うことで,放線菌属でL-メチオニンγ-リアーゼ活性を有することを世界で初めて見出した。
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