研究概要 |
本研究では,海域の窒素ガス生産を再考するために,新たに開発した分子ツールを用いて海洋性従属栄養脱窒細菌やアナモックス細菌(嫌気的アンモニア酸化細菌)の分布や種組成,またそれらの集団の動態を調べる事を目的とした。すでに分離していたMarinobacter spp.HS7株とHB7株で未だ酵素遺伝子が同定されていなかったNO還元酵素遺伝子(cnorB)の全塩基配列(1416bp)を決定した。さらに,すでに決定済みのNO_2^-還元酵素遺伝子(nirS)とN_2O還元酵素遺伝子(nosZ)とあわせて,mRNA量(発現量)をRTリアルタイムPCR法により定量する実験系を確立し、HS7株とHB7株の脱窒関連遺伝子群の発現パターンを検討したところ,非常に近縁な両株において脱窒関連遺伝子の発現パターンが異なる事が明らかになった。このことから,環境中で脱窒が誘導される条件は従来考えられていたよりも複雑である可能性が示唆された。 また,データベースに保存されているアナモックス細菌遺伝子配列から,配列相同性85%を閾値としてアナモックス細菌由来の16SrRNA遺伝子(AMX-16S)とする定義を設定し,新たにデザインした選択的プライマーを用いて,西日本沿岸域及び茨城県北浦の堆積物からアナモックス細菌由来の遺伝子の増幅とその遺伝子種の解析を試みた。すると,^<15>Nトレーサー法でアナモックス活性が検出された試料からは,AMX-16Sが高頻度で得られた。クローンライブラリー法による解析の結果,淡水環境ではCandidatus "Brocadia"属やCa. "Kuenenia stuttggartiensis"に近縁な細菌が優勢であったのに対し,海水環境ではCa. "Scalindua sorokinii"に近縁細菌が優勢であった。これは,アナモックス細菌が塩分を主要な指標として"棲み分け"ていることを示す初めての報告となる。
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