研究概要 |
造血幹細胞は,造血前駆細胞の段階を経てすべての血球に分化・成熟する能力と自分と同じ能力をもった細胞を複製する能力を有する細胞であると定義されている.この造血幹細胞の持つ2つの能力(多分化能,自己複製能)により,血球は一生の間枯渇することなく,供給されると考えられる.現在までのところ,この造血幹細胞の存在を証明するには,移植実験系が必要不可欠とされている.すなわち,ドナー(提供者)から造血幹細胞を含む細胞集団を分離し,レシピエント(受給者)に移植する.そして移植後のレシピエント血中にドナー由来の血球が長期にわたって供給されることを確認しなければならない.ところが魚類では,このような移植実験に適した近交系やクローン系統が知られていなかったため,これまで魚類造血幹細胞の研究はほとんど行われてこなかった.申請者らは天然雌性発生魚である3倍体クローンギンブナ(ドナー)の造血組織から分離した細胞をクローンギンブナとキンギョの4倍体雑種(レシピエント)に移植し,移植細胞の増殖・分化能を長期間にわたって追跡することにより,魚類の主要な造血部位である腎臓中に"多分化能"と"自己複製能"を持った造血幹細胞が存在することを示した.また,SP(side population)細胞分離法を用いてドナーから造血幹細胞を分離し,分離したSP細胞をレシピエントに移植することにより,造血幹細胞の存在を"プロスペクティブ"に証明することにも成功した.次に,この分離したSP細胞を用いて,造血幹細胞の発現遺伝子解析などを行い,魚類造血幹細胞も哺乳類と同様の遺伝子発現(ABCG2など)を示すことを明らかにした.
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