研究概要 |
【背景と目的】腐植土は湿地帯や海底から得られ,堆積した動植物の遺体などが,その組織的形状がみられない状態まで腐和されたものである。腐植土から得られる腐植物質について,動物の生理機能に与える効果に関する研究はほとんどない。今回コイの非定型Aeromonas salmonicida感染症(いわゆる穴あき病)とアユのFlavobacterium psychrophilum感染症(いわゆる冷水病)に対する腐植土抽出液の感染防御効果を検討した。 【材料と方法】抽出液添加飼料を給餌したコイを,強毒A. salmonicida,またアユはF. psychrophilumで浸漬攻撃した。套の生死および体表の病変を観察し,同時に菌分離を実施した。さらにPCRを用いて,F. psychrophilum遺伝子を検出した。 【結果】まず腐植土抽出液の,F. psychrophilumを含む魚病細菌9種15株に対する抗菌作用を調べたところ,いずれも抗萄作用を示した。感染実験において,抽出液非投与コイに,A. salmonicida感染後体表出血と皮膚のびらんが観察され,その餐出血病変は重度となった。病変はさらにいわゆる'穴あき'状態へと進行し,重度の潰瘍により筋肉が露出した。攻撃15碗におけるコイの生残率は20%であった。体表出血病変部および潰瘍部からはA. salmonicidaが分離された。一方,抽出液覇加飼料を給餌したコイにおいては,皮膚病変は観察されないか軽微であり,死亡する魚もなかった。生残魚の皮膚および腹艇内臓器からは,菌は分離されなかった。さらに,アユへの腐植土抽出液添加飼料の給餌は,冷水病に対する感染防御効果を童たらした。攻撃21日後における正常飼料給餌アユの生残率は35%であり,体表の潰瘍部および鰓からはF. psychrophilumが分離され,菌の遺伝子も検出された。一方,抽出液添加飼料を給餌したアユにおいては,皮膚病変は観察されず,生残率は96%であった。生残魚の皮膚および鰓からは菌は分離されず,生残率は96%であった。生残魚の皮膚および鰓からは菌は分離されず,また菌の遺伝子も検出されなかった。 【考察】魚への腐植土抽出液添加飼料の給餌は,穴あき病および冷水病に対し感染防御効果をもたらすことが明らかとなった投与された腐植土抽出液が腸管より吸収,あるいは血中に存在することにより感染防御効果をもたらすと推測され,現在その機序を解析中である。
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