研究概要 |
肺気腫など,肺胞の傷害を伴う呼吸器疾患に対する現行の治療法には高濃度酸素吸入以外になく,肺胞の再生や肺でのガス交換能を促進する治療法の開発が望まれている.我々は肺胞上皮細胞に高発現する水チャネルの一種aquaporin-5(AQP5)が水のみならずCO_2ガスをも透過させることを見出し,本分子がガス交換の効率化を考える上での重要な標的分子となる可能性を提唱してきた.本研究では,AQP5機能の調節に基づく換気障害治療に関する戦略に関する基盤を構築することを目的とし,肺胞上皮細胞でのAQP5遺伝子の発現,病的状態でのAQP5機能の変化および本分子の高発現がもたらす細胞生物学的変化について検討した.その結果,まず,肺胞上皮細胞でのAQP5の発現は,本遺伝子のSp1結合部位のDNA脱メチル化が重要であることが分かった.また,水透過性を指標に調べたAQP5機能は,一酸化窒素(NO)により著明に抑制され,その機序にはAQP5分子中のシステイン残基のS-ニトロシル化が関わると考えられた.一方,CO_2ガスの透過については,AQP類の孔構造内腔にあるシステインおよびヒスチジンが,金属イオンと複合体を形成してCO_2ガス選択的結合ポケット様の働きをすると推定された.さらに,AQP5によるガス分子の透過性亢進は,低酸素環境により誘発される細胞死に対する抵抗性と密接に関わることが分かった.アデノウイルスを用いてAQP5を高発現する実験動物は依然,作製中であり.引き続き,確立を目指す.これらの成績は,炎症を伴う種々の呼吸器疾患時の換気効率に関する病態生理と,その正常化に向けた治療戦略を考える上で重要な基礎データである.
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