研究概要 |
私たちは最近,ヒトプレBリンパ細胞株Nalm-6を用いて,ヒト遺伝子を効率良くノックアウトできるシステムを開発した.本研究では,このヒトNalm-6細胞系を用いて,DNA鎖切断修復への関与が示唆されるさまざまなヒト遺伝子を破壊した変異細胞株(ノックアウト細胞)を系統的に作製し,その機能を逆遺伝学的に解析すること目的として研究を行った.こうした研究により,ヒト細胞レベルにおいてDNA鎖切断修復の詳細な分子機構や各修復経路の細胞内での役割分担を明らかにすることができる.本研究では,Rad54,FancB,Mus81,Tdp1,Ku70/80,Lig3などDNA一本鎖・二本鎖切断修復に関わるさまざまな遺伝子について,順次ジーンターゲティングを行うとともに,これら遺伝子の二重変異株,特にDNA ligase IVとの二重変異株の作製を進めた.次に,これら一連の変異株を利用してシスプラチンやトポイソメラーゼ阻害剤などの抗がん剤に対する感受性を解析した.また,p53とBLMとの遺伝学的相互作用や,MUS81とFANCBとの遺伝学的相互作用について詳細な解析を行った。さらに,非相同組換え(ランダムインテグレーション)の機構の全容を解明し,あらゆるヒト細胞において高効率ジーンターゲティングを可能にする方策を見いだすことを目的として,RNA干渉法による遺伝子ノックダウンにより,ヒト細胞に存在する3種類のDNA ligaseのランダムインテグレーションへの関与を調べた.本研究により,非相同末端連結の抑制によりジーンターゲティング効率を正に制御できることが示されただけでなく,非相同末端連結に依存しないランダムインテグレーション反応の機構解明が急務であることが結論付けられた.
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