研究概要 |
glycerolトランスポーター群の機能解明の手がかりを得る目的で,HCT-15細胞におけるNa^+依存性トランスポーターによるglycerol取り込みに対する1)butyrateによる細胞分化誘導処理の影響,2)glycerol誘導体等の類似構造物質の阻害活性,の解析を試みた. butyrate処理の結果,glycerol取り込みの最大輸送速度が約5倍に上昇にしたが,ミカエリス定数(親和性)はほとんど変化しなかった.Na^+依存性及び類似薬物等による阻害特性にも影響はなく,非処理細胞で機能しているトランスポーターが誘導されたものと考えられた.さらに,actinomycin D(遺伝子転写阻害剤)及びcycloheximide(タンパク合成阻害剤)により取り込み増大効果はほぼ完全に抽制された.これらの知見は,glycerol取り込みに関わる特異的輸送タンパク質(glycerolトランスポーター)の存在を裏付けるものである. 類似構造物質の阻害活性解析の結果,glycerolのエステル誘導体であるmonoacetin及びmonobutyrinが強い競合阻害活性を示した.薬物のエステル誘導体がglycerolトランスポーターの基質となる可能性があり,本トランスポーターを利用したドラッグデリバリーも期待できると考えられる.また,1,2-propanediolについて,阻害活性は弱いながら,競合的かつエナンチオ選択的(R体とS体の鏡像異性体間での差異)な特性がみとめられた.これらの特性も,トランスポーター介在性輸送に特徴的であり,特異的輸送タンパク質の存在を裏付ける証拠の一つである. 以上,HCT-15細胞型Na^+依存性glycerolトランスポーターの実体解明に向けて情報を積み重ねることができた.クローニングの実現に加え,その機能及び生理的役割の解明が望まれるところである.
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