研究概要 |
生きた細胞の細胞膜上ではスフィンゴ脂質やコレステロールが豊富なラフトと呼ばれるミクロドメインが想定されており,情報伝達,細胞接着,細胞内小胞輸送などに関与することが示唆されている.生物物理学的手法などによりラフトは非常に小さな構造であることが示唆されており,ラフトを直接観察するには解像度の高い電顕を用いる必要がある.しかしながら,従来の化学固定法では脂質を固定することはできず,新たな方法が必要である.今回の研究では急速凍結およびSDS処理凍結割断レプリカ標識(SDS-FRL)法を用い,細胞膜上での脂質分布の可視化を試み,以下の結果を得た. (1)Phosphatidylcholine(PC)リポゾームより作製した脂質レプリカ膜ではSDS処置後でも元の脂質の約80%が保持されていることがわかり,SDS-FRL法が細胞膜での脂質分布を検索するのに有効な手段であることを証明した. (2)ラフトの主要構成分子であるGM1は細胞膜のほぼ全域がクラスター分布を示し,平均直径96nmのクラスターを形成していることがわかった.またラフト構造の維持に重要なコレステロールを除去した細胞由来の薄膜ではGM1の分布パターンはランダム分布が細胞膜全体の約30%にまで増加していた.また他のラフトの主要構成分子であるGM3もコレステロール依存性のクラスターを形成しており,ほとんどの場合GM1とは別のクラスターを形成していることもわかった.これらのことからGM1およびGM3が形成するクラスターはラフトそのものである可能性が考えられた. (3)アクチン線維の脱重合薬であるLatruculin Aを処置することにより,GM1とGM3が別々のクラスターではなく,共通のドメインを形成するようになることがわかった.
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