研究概要 |
カベオラ膜輸送を利用して,細胞内に侵入するウイルス種は潜在的に多いと考えられているが,その詳細は明らかになっていない.特に,エンベロープウイルスの細胞内侵入に利用されるカベオラ膜輸送については,全くわかっていないと言える.我々は,ラフト・カベオラの機能解析を行っている過程で,風邪の原因ウイルスであるヒトコロナウイルス-229E(エンベロープウイルスの一種)は,細胞膜に吸着後,膜融合せずに,細胞膜上をカベオラまで滑走し,カベオラから細胞内に侵入することを見出した.近年,HCoV-229Eのように,特定の細胞膜ドメインまで細胞膜上を滑走してから細胞内に侵入するというウイルス種の報告は増えつつあり,ウイルス滑走と,その後の侵入機構の詳細を明らかにする必要がある.本研究期間内の成果としては以下の通り. 1)ウイルスエンベロープに対する抗体の作製 計8羽のウサギに対して,4種の抗原をそれぞれ免疫した.ウエスタンではどの抗体もワークしたが,形態学的に使用できる抗体の産生には至らなかった. 2)蛍光標識コロナウイルスの作製 N-protein,S-proteinにECFP,EYFP,DsRedmをタグした癒合タンパク質を安定して発現する宿主細胞を多数クローニングし,各クローンにおけるウイルス産生能等を決定した.現在,蛍光ウイルスの作成を試みている. 3)ウイルスレセプターのタイムラプス解析 ヒトコロナウイルス-229Eのレセプター分子(CD13)を,抗体にて生細胞上で架橋し,その動態を蛍光タイムラプス解析した.その結果,CD13は,細胞膜上を流れるように滑走し,クラスターを形成すること,クラスターの中には互いに"合流"するものがあること,膜上にはクラスター形成が起こりやすい部位があることがわかってきた.今後,滑走機構の詳細を明らかにしたいと考えている.
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