研究概要 |
未だ原因不明の疾患の患者が,偶然に染色体均衡型構造異常を合併している場合(DBCRs),構造異常により障害されている遺伝子が責任遺伝子であることを明らかにできる場合がある.一方,構造異常染色体の切断点に既知の遺伝子がなければ,その症例の構造異常は臨床症状とは無関係と考えられてきた.しかし,我々はそういったDBCRs症例の中に,構造異常によりゲノムの核内立体構造が変化して関連遺伝子が位置効果の影響をうけている症例の存在を考え,その仮説を検証するために3D-FISH解析を実施した.昨年度から解析を試みていた均衡型構造異常のひとつであるt(11;22)(q23;q11)症例をターゲットとした解析において,切断点近傍に座位するBACクローンを複数用いることにより,ターゲットとする4種類の染色体(正常11番,派生11番,正常22番,派生22番)を3次元核内にて識別可能とする新たなプローブのデザインを考案し,有効性について検証した.また,これまで直接法による標識では十分なシグナルが検出できないという理由で間接法によるプロトコールが採用されていたが,工夫により直接法でも解析可能であることを確認し,観察用標本の作成にかかる時間を数時間短縮できる方法を確立した.さらに,実際にとりこんだ画像データの解析を通じて,データ解析に適した標本の条件を改めて明らかにし,また解析ソフトの応用についても本研究目的にあったデータの取得法について検討した.当初めざしていた複数症例の解析と仮説の実証にはいたらなかったが,本研究期間で確立できた新たなプローブのデザインや至適条件についての基礎データの構築は,遺伝子の核内配置と位置効果に関する研究を今後推進するために大変重要な研究成果と考えた.
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