研究概要 |
急性冠症候群の発症には、冠動脈内の血栓形成とそれによる内腔閉塞が直接的なひき金となる。 我々の研究成果を含めた知見の蓄積により、ヒト冠動脈プラークにおける血栓の形成・進展には、酸化ストレスが密接に関連することが明らかとなってきている。酸化ストレスの充進は内皮細胞の傷害や細胞老化による機能障害、および酸化LDL生成の増大をもたらし、結果として内皮細胞の抗血栓能低下、血小板粘着充進などにより血栓形成が促進されると考えられる。近年、ヒトでの酸化ストレス亢進や酸化LDL生成増大に寄与する候補物質として、好中球のミエロペルオキシダーゼが注目されている。本研究は、急性冠症候群の発症予知および抑制をめざして、急性冠症候群の発症に直結するヒト冠動脈血栓形成・進展メカニズムについて、特に酸化ストレスや好中球ミエロペルオキシダーゼをはじめとする酸化ストレス関連物質の動態を解明することを目的としている。 平成18年度は、ヒトの冠動脈や頸動脈から不安定プラーク標本を凍結材料も含めて収集し、プラーク破裂・びらん部位における血小板・好中球連関について明らかにし、アメリカ循環器学会(AHA)やアメリカ心臓病学会(ACC)で発表した(Circulation 2006,J Am Coll Cardiol 2007)。また、不安定プラークにおける血栓形成と酸化ストレスの関連についても明らかにして、論文として発表した。(Arterioscler Thromb Vasc Biol 26;877-883.2006) 平成19年度は、好中球ミエロペルオキシダーゼや酸化ストレスに関連することが実験的に明らかにされているNeopterinやS100A8/A9 Complexのヒト冠動脈の不安定プラークでの局在やその発現増強の有無について解析した。その結果、不安定プラークにおける好中球活性化やミエロペルオキシダーゼの発現に伴う酸化ストレス増強の指標として、Neopterinが診断や発症予知にたいへん有用な新規物質として期待されることを明らかにした (Heart93:1537-1541.2007)また、プラークにおけるミエロペルオキシダーゼ陽性好中球の浸潤に関連して、SlOOA8/A9 Complexがヒト冠動脈のプラーク不安定化に重要であることを初めて報告した(Miyamoto S, et. al.,Heart,2008in press)。
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