研究概要 |
ヒト食道癌組織の先進部におけるCXCR4の発現を免疫染色法で検討した結果,膜蛋白であるCXCR4が食道癌細胞の細胞膜のみならず核にも発現することを見出した.実際,T.Tn食道癌細胞より核蛋白を抽出し,CXCR4発現をwestern法で確認した結果,食道癌細胞の核に認めるCXCR4発現は特異的なものであることが示唆された.さらには,33名の食道癌患者を対象とし,CXCR4の発現パターンと臨床病理組織学的因子の関連を解析した結果,CXCR4核陽性像を示す群は,示さない群に比べて有意に予後が悪いことが示唆された.同様の結果は大腸癌でも認められ,その研究成果は学術雑誌Br J Cancerに発表した. 以上の検討に加えて,CXCR4のリガンドであるSDF-1αと,CXCR4シグナルとクロストークするEGF受容体の発現を食道癌組織において免疫組織化学的に検討した.その結果,食道癌先進部においてCXCR4が核発現する食道癌ではSDF-lαが高頻度に発現した.興味深いことに,リン酸化EGF受容体発現もCXCR4と同様に,細胞膜のみならず核に陽性像を示す食道癌が存在し,CXCR4核陽性癌とリン酸化EGFR核陽癌に正の関連が認められた.これらの結果から,SDF-1αやEGF受容体シグナルがCXCR4の核発現に関与している可能性が考えられ,この研究成果の一部は学術雑誌Pathobiologyに発表した. 次に我々は,CXCR4の核発現を規定する因子を明らかにするために,T.Tn食道癌細胞を低酸素刺激したところ,細胞膜のCXCR4発現は増強した.しかしながら一方で,核のCXCR4発現は低酸素刺激で減弱すること見出した.現在,食道癌細胞細胞におけるCXCR4発現局在の変化が癌細胞の接着能および浸潤能に関与するのではないかと考え,T.Tn細胞から樹立された接着能の強いT.Tn-AT細胞と浸潤・遊走能の強いT.Tn-Mgr細胞を用い,低酸素刺激によるCXCR4細胞内発現局在の変化と細胞機能の関係について解析中である.
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