研究概要 |
ラット肝細胞をTNF-α存在下でコラーゲンゲル内包埋培養すると,著明な樹枝状形態が誘導され,長期間培養により基底膜を伴う管腔構造を形成することが明らかになった.また,これらには胆管上皮の機能マーカーであるCFTRや胆管上皮特異的アクアポリンの遣伝子発現の上昇および肝細胞特異的アクアポリンの遺伝子発現の低下が認められた. 肝細胞の樹枝状形態形成はJNKやc-Junのリン酸化を伴っており,JNKの特異的阻害剤により形態形成が強く抑えられた.との関連が疑われた. 三次元培養下での肝細胞における接着因子の蛋白発現を調べたところ,E-cadherin,ZO-1,occludinなどの発現が増加し,これらの発現はTNF-αによりさらに促進されることが明らかになった.また,胆管上皮特異的接着分子であるSgIGSFの発現も同様に増加した. 肝細胞特異的にDsRed2蛍光を発生するAlb-DsRed2トランスジェニックラットから採取した肝細胞をコラーゲンゲル内に包埋し,2-3週間TNF-α存在下で培養すると,DsRed2蛍光はほぼバックグラウンドレベルまで低下した.しかし,コラゲナーゼ処理によりゲルから細胞を分離,回収し,基底膜様物質(Matrigel)の上で培養すると,TNF-αを添加しない場合に,5日後から蛍光が回復し始めた. 以上より,TNF-αが肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換を促進するサイトカインであることが明らかになり,その細胞内メカニズムとしてJNK-c-Jun経路が重要であることが示唆された.また,肝細胞は,TNF-αにより胆管上皮様に分化転換した後でも,より生理的な細胞外環境に置かれた場合,本来の形質の少なくとも-部を回復しうることが判明した.
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