研究概要 |
横紋筋肉腫は、病理組織学的に胞巣型と胎児型の二病型に大別される。胞巣型においては、2つの病型特異的転座、すなわちt(2;13)(q35;q14)とそのvariantであるt(1;13)(p36;q14)が知られている。これらの転座によりそれぞれ、PAX3-FOX01、PAX7-FOXO1融合遺伝子が形成される。一方、胎児型においては、これまで原因となる融合遺伝子は同定されていなかった。我々は、胎児型において認められた複雑型染色体転座t(2;8;12)をspectral karyotyping(SKY)法で解析し、PAX3遺伝子の局在する2q35バンドが転座切断点であることを明らかにした。そこで、PAX3遺伝子を挟む2つのbacterial artificial chromosome(BAC)クローンをプローブとしてFISH解析を行ったところシグナルの分離を認め、同遺伝子が再構成していることを確認した。次に、PAX3遺伝子のパートナー遺伝子を探索し、8p11切断点からTIF2遺伝子を同定した。さらに、FISH解析によって実際にPAX3-TIF2融合シグナルを検出した。上述したように、胞巣型では病型特異的な原因遺伝子として、PAX3-FOX01、PAX417-FOXO1融合遺伝子が同定されていたが、胎児型ではこれまで原因遺伝子は同定されていなかった。PAX3-TIF2融合遺伝子は、胎児型で初めて見出された原因遺伝子であり、本病型における分子機構を考える上で重要な知見を得た。本研究では残念ながら、PAX3-TIF2融合遺伝子の分子構造を決定するまでには至らなかったが、胎児型においても胞巣型と同じくPAX3の関与する融合遺伝子が見出されたことより、PAX3-TIF2が、PAX3-FOXO1と同じようにPAX3のDNA結合ドメインを保持し、その標的遺伝子を転写し続けるため、筋芽細胞が増殖を止めず、また最終分化も抑制されて横紋筋肉腫を発生させていると考えられた。横紋筋肉腫においてTIF2遺伝子の関与する転座が他に複数存在しないか、横紋筋肉腫細胞株(Rh2, RD, HKBm, RM2, Rh30)を対象にFISH解析で検討したが、同様な転座は認められなかった。
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