研究概要 |
本研究は,抗酸菌感染により誘導されるサプレッサーマクロファージ(S-MΦ)から標的T細胞へ細胞間接着を介して伝達される抑制性シグナルにより,標的T細胞内のアルドース還元酵素(AR)が,チロシン(Tyr)脱リン酸化を受けるという現象に焦点を当て,そのメカニズムを解明しようとするものである。一連の検討により,(1)マウスT細胞中のAR蛋白や昆虫細胞系で発現させた組換え型AR蛋白(rAR)に対して,抗リン酸化Tyr抗体が結合すること,(2)マウスARのアミノ酸配列中にあるTyr-40は,チロシンキナーゼリン酸化部位のコンセンサス配列([R,K]-x(3)-[D,E〕-x(2)-Y)中にあり,Tyr40がリン酸化されている可能性があること,(3)ARのSer残基もリン酸化されること,(4)T細胞内では,AR蛋白は構成的に発現しており,標的T細胞をS-MΦと混合培養した場合でも,T細胞内のAR蛋白の発現プロフィールには,ほとんど変化は認められないこと,(5)抗CD3/抗CD28抗体刺激で誘導されるT細胞マイトジェネシスが,AR阻害剤の添加により,強く抑制されるものの,抗CD3/抗CD28抗体刺激によって誘導される標的T細胞内のMAPキナーゼ(ERK1,2)のリン酸化は,S-MΦとの混合培養によっては影響を受けないことが明らかになった.以上の成績より,ARは,TCRからのRasを介してERKの活性化に至るシグナル伝達系とは別の,CD28からAktを介してNFκBの活性化に至るパスウェイに関与している可能性が考えられる.現在,S-MΦにより,標的T細胞内でのARのTyr脱リン酸化が誘導されるメカニズムについても検討を進めている.
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