研究概要 |
本研究ではビブリオ・ミミカス(食中毒起因菌),およびビブリオ・バルニフィカス(敗血症起因菌)の菌密度依存性調節系(QS系)を比較した。まずビブリオ・ミミカスのQS系については,次のことが示された。1)他のビブリオ属細菌と同様,LuxSORの三つの因子から構成されていた。2)期待されたとおり,LuxSが発現調節のトリガーとなるシグナル分子(AI)を合成する酵素であった。3)LuxSの遺伝子を破壊した変異株においても十分量のATが産生され,他のシグナル分子の存在が示唆された。4)調節蛋白質としての機能が予想されたLuxOは金属プロテアーゼ(脱離因子)の産生を調節した。しかしビブリオ・バルニフィカスとは異なり,溶血毒素(下痢起因毒素)の産生は調節しなかった。5)ビブリオ・バルニフィカスとは異なり,37℃においてもQS系が十分に機能した。ゆえに腸管腔内において金属プロテアーゼなどの発現調節を行い得ると考えられた。 一方ビブリオ・バルニフィカスのQS系に関しては,次の研究を実施した。QS系に支配されている遺伝子を網羅的に把握するため,AI受容体の特異的欠損株(変異株)を作製し,分泌性蛋白質のプロテオームを野生株と比較した。その結果,10種類以上の蛋白質において,分泌量の明確な違いが認められ,QS系がグローバルな調節系であることが示された。しかし遺伝子の転写量には有意な差が観察されなかった。よって,遺伝子(DNA)からmRNAへと転写される段階ではなく(遺伝子の発現段階ではなく),mRNAから蛋白質へと翻訳される段階が調節されると考えられた。 本研究によって,各々のビブリオ属細菌において,QS系の発現条件およびQS系の支配下にある毒素遺伝子が異なっていることが明らかとなった。このような違いが存在するため,感染した際の病態に違いが生じると思われる。
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