研究概要 |
麻疹に対しては、特異的な治療法がなく、ワクチン接種による予防が重要である。有効な弱毒生ワクチンが開発されているが、生ワクチンの弱毒化の分子基盤は分かっていない。本研究では、麻疹ウイルス(マイナス鎖RNAウイルス)を人工的に改変する技術を用いて、麻疹ウイルスワクチン株の弱毒化とウイルスポリメラーゼの機能との関係について解析を行った。麻疹ウイルスのゲノムにはN,P,M,F,H,Lの6つの遺伝子がコードされている。このうちPとLのふたつの遺伝子がウイルスポリメラーゼをコードしている。病原性を保持している病原株IC-B株と、病原性を持たないEdmonstonワクチン株のPやL遺伝子を相互に組換えたウイルス、あるいは、ゲノムの3'末端のプロモータ領域を相互に組換えたウイルスなど、十数種類の組換えウイルスを合成した。ウイルスの増殖を視覚的に容易に観察するために、一部のウイルスには緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子を組込んだ。また、ウイルス遣伝子発現のレベルを容易かつ定量的に解析するために、その他のウイルスにはルシフェラーゼ遺伝子を組込んだ。これらの組換えウイルスを血球系、上皮系などの様々なヒト細胞に感染させ、ウイルスの増殖の程度や遺伝子発現のレベルを定量的に解析した。その結果、ワクチン株のウイルスポリメラーゼの活性が、野生型ウイルスのポリメラーゼに較べて大きく低下していることが証明された。 さらに麻疹ウイルス受容体を発現するマウスを作出することにより、麻疹ウイルスの感染小動物モデルを確立した。本モデルを用いることにより、P、L遺伝子の変化が、ワクチン株の弱毒化に大いに関与していることが明らかになった。
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