研究概要 |
1960年代に始まった内因性ジギタリス様物質(endogenous digitalis-like factor, EDLF)研究は、1990年前後にウアバインが本体であるとの報告から一時期進んだが、その後、ウアバインが属するカルデノライド類ではなく、ブファディエノライド類にEDLF活性があることがBagrovらのマリノブファゲニン発見により明らかとなった。本研究はこのような背景の中で、水・電解質代謝に重要なモデュレーターとして働くEDLFが水分代謝と関係する新たなEDLFはマリノブファゲニン(MBG)ステロイドD環のエポキシが解裂し2水素付加体構造となったテロシノブファギンと同一であることを、NMRおよび元素分析で一致することを明らかにし、さらにヒト血液中にはMBGとともに存在することが明らかとした。さらに、我々はMBGの関連物質の1つであるMBGにスベロイドアルギニンがエステル結合したマリノブフォトキシン(MBT)が哺乳類に存在し,その昇圧作用を,ラットを用いて証明した.さらに、MBTを基質に種々エステラーゼによる分解反応を検索した組織カリクレインやコレステロールエステラーゼが関与する可能性を認め、この内容は、日本臨床検査医学会奨励賞を受賞するとともにSHR学会、国際SHR学会で高い評価を受けた。そこで本酵素の解析に新しい検索システムを構築し、解析を進めたが、困難を極め同定するに至らなかった。 しかし,MBTの高血圧発症およびレニン・アンジオテンシン系との関連を解明するため自然発症高血圧ラット(SHR)を用い検討した.その結果,アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を投与して降圧した群ではcontrol群と比べ血中MBT濃度の有意な低下が、またcontrol群では開始前とくらべ2,4週で尿中MBTの増加を認め,ARBを投与して降圧した群では尿中MBTの増加は見られなかった.これらの結果から,SHRの血圧調節機構にもブファディエノライド特にMBTの関与が考えられ,さらにその調節にRAS,特にアンジオテンシンIIの関与が示唆された.さらに本解析法は臨床薬毒物学にも応用した。
|