研究概要 |
秋田県の女性20人(平均年齢68.7歳、カドミウム曝露群)、および、性・年齢を個人マッチさせた長崎県の女性20人(平均年齢67.6歳、非曝露群)を対象として、末梢血白血球からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現の変化を検討した。カドミウム曝露群で有意に発現が増加した遺伝子が137個、発現が減少した遺伝子が80個同定された。この中から、遺伝子発現の程度と血液・尿中カドミウム濃度との相関が高い、または生物学的に重要な機能を持つなど、設定した基準を満たす17遺伝子を選び出し、RT-PCRで確認を行った。RT-PCRで有意な変動を示した遺伝子はCASP9,HYOU1,SLC3A2,SLC35A4,ITGAL,SLC19A1,BCL2A1,GPX3,TNFRSF1B,COX7Bであった。TNFRSF1B,BCL2A1,CASP9は、アポトーシス関連遺伝子、HYOU1,GPX3はストレス応答に関連する遺伝子であった。また、SLC3A2,SLC35A4,SLC19A1は輸送体関連遺伝子であった。以上の結果から、カドミウム曝露による酸化ストレス、ミトコンドリアを介するアポトーシス誘導と輸送体関連遺伝子の発現上昇など特徴的な所見が明らかとなった。 プロテオミクスの環境医学への応用について、レビューを行った。次いで、内分泌撹乱化学物質の一つであるビスフェノールA(BPA)の曝露実験を行ったが、ラットにおいて出生匹数の減少は再現されなかった。そこで、四塩化炭素によるラット肝障害モデルを作成し、変動する蛋白質を2次元電気泳動、質量分析、安定同位体(cleavable ICAT)を用いたプロテオーム解析によって網羅的に検討した。その結果、急性肝障害に伴い、代償的に、対照群に比較して5倍以上発現上昇する酵素を見出した。現在、その生理学的意義を、免疫組織化学的方法などを用いて検討している。
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