研究概要 |
在胎15日目に2,3,7,8-4塩化ダイオキシン(TCDD)1.0μg/kgを母獣に経口投与暴露して出生した仔ラットに行動実験を行い、ダイオキシン胎内暴露の大脳辺縁系に関連した行動に及ぼす影響を明らかにした上で、海馬、扁桃体、眼窩皮質におけるCaMKII活性を生後19週目に測定し、大脳辺縁系におけるニューロン活動との関連性を検討した。 1)傾斜板テストを生後4日から14日まで毎日行い,運動発達を暴露群,非暴露群とで比較検討したところ,暴露群の潜時短縮の遅れが男女児共にみとめられ、その後の学習の遅れとも関連していた。 2)オス仔ラットについてシャトル・アボイダンス・テストを用いて短期学習(1日50回行う)を行ったところ、TCDD暴露群の回避率は対照群に比べ低く、学習による改善も遅かった。このオスラットの眼窩皮質および扁桃体のCaMKIIのリン酸化および産生量が抑制されていた。 3)離乳後の味覚発達について6種のアミノ酸(トレオニン、グリシン、リジン、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、ヒスチジン、アルギニン)及び食塩を用いて検査し、メスのTCDD暴露群では対照群で認められた生後29-33日のMSGの増加が認められず、リジンの摂取が増加していた。これらのラットの海馬、扁桃体、眼窩皮質におけるCaMKII活性は促進しており、TCDDにより過剰なニューロン活動が生じ、味覚発達を障害する可能性が示唆された。 4)メスラットではNR1(subunit of NMDA receptor),GluR1(subunit of AMPA receptor),Synapsine Iなどの活性が扁桃体で上昇しており、扁桃体ニューロンの活動が活性化されている可能性が示唆された。 以上より、ダイオキシンの胎内暴露により脳、特に大脳辺縁系の神経活動に影響を及ぼすことにより、成長後の行動異常が生じている可能性が考えられた。
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