研究概要 |
一般に腐乱した水中死体では珪藻の検査が溺死の診断に有効であるが,珪藻の少ない水域で溺死した場合など,生前の溺水の吸引を示唆し得る程度の珪藻を検出できない場合もある.そこで,従来の珪藻検査に加えて水棲細菌の検査も合わせて行えば,溺死の診断精度の向上につながるではないかと考えた.本研究では先ず溺死した水域の推定に有用な水棲微生物を検討するため,2つの河川について,干潮時と満潮時に計17箇所から表層と底層の水を採取し,水の塩分濃度と珪藻及び水棲細菌の関係について調査した.その結果,珪藻については,一般に淡水産の珪藻も海水域で検出され得るが,大きな波状目珪藻Ulnaria spp.,Cymbella spp.,Surirella spp.は,その殆どが河口に達するまでの間に沈降し,これらの珪藻が数多く検出されることは河川淡水域の指標として有用と思われた.また海水域では大型の同心目珪藻Chaetoceros spp.,Thalassiosira spp.,Biddulphia spp.,及び特徴的な波状目珪藻Grammatophora sp.,Thalassionema sp.,Trachyneis sp.,等が指標として有用と思われた.水棲細菌については,淡水と海水の識別は明瞭であった.即ち汽水域では表層から淡水性の細菌のみ,底層から海水性の細菌のみが検出された.水棲細菌の検出は生菌を対象としているため,例えば淡水が海水に混ざり塩濃度が上昇すると淡水性の細菌は検出されない傾向が示された.以上の結果から従来の珪藻検査に加えて水棲細菌の検査を行うことは溺死した水域の推定に有用と思われた.次いで実際の解剖例への応用として,汽水域で発見された水中死体2例について,珪藻および水棲細菌の検査をおこない,溺水域の推定に有用であることが示された.
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