研究概要 |
本研究は受傷後経過時間の推定,すなわち創傷の陳旧度の判定および受傷時期の生前,死後の鑑定法といった法医学特有の問題意識から,有用なマーカーの検索とその評価を目指したものである.なお,皮膚を主として検討したが,脳,骨をも検討対象として加えた。研究の進めかたとしては,まず実験モデルを作成し,免疫染色法,リアルタイム定量PCR法,in situ hybridization法,beads suspension array法などの技法を用いてサイトカインの発現動態を遺伝子レベル、タンパクレベルで検討した.さらに受傷時期の明らかなヒト切創,刺創,裂創,挫創を対象とし定量解析を行い,また具体的な鑑定法の構築を行った.まず17種のサイトカインにつきタンパクレベルでの発現解析をおこなったところ, IL-5, IL-10, IL12p70, IL13, IL17, GM-CSF, IFN-Y, TNF-αの受傷後早期の,IL-6, MCP-1の中期の,またIL-1β, IL-2, IL-4, IL-8, G-CSF, MIP・1βの受傷後中期から後期にかけての発現の上昇を認めた.なお,IL-7は傷治癒過程で発現が抑制されていた.IL-5, IL-10, IL12p70, IL13, IL17, GM-CSF, IFN-Y, TNF-αは急性期の指標となることが示唆され,皮膚損傷受傷後経過時間推定においては,免疫組織学的手法に加え,定量解析も推定の一助になると考えられた.さらに法医実務への応用を視野に入れ,サイトカイン検査を外注で行うことを試みた.すなわち本邦の臨床検査会社におけるサイトカイン検査体制を調査した上で,本検討でのデータを考察し,法医実務で有用と考えられるサイトカイン10種, IL1β, IL4, IL6, IL8, IL10, G-CSF, GM-CSF, IFNγ, MCP1, TNFαを選定した.
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