研究概要 |
細胞質ホスホリパーゼA_2(cPLA_2α)は膜リン脂質からのアラキドン酸遊離を制御する酵素であり,マウスやヒトにおいて腸管ポリープの形成に関わる可能性が示唆されている.一方,大腸に腺腫が多する家族性大腸腺腫症(以下FAP)は家系間や家系内で臨床徴候が異なっている.そこで,FAPにおいてcPLA_2αが疾患修飾遺伝子か否かを検討した.臨床的にFAPと診断され,遺伝子解析の同意を得られた59家系73例(男性36例,女性37例)を対象とした.国際HapMapプロジェクトのデータベースに基づいて選択したcPLA_2αの7個の単塩基多型(SNPs;rs3820185,rs17591814,rs12746200,rs12749354,rs12042344,rs12144159,rs4402086)をダイレクトシークエンス法で解析し,臨床所見(大腸腺腫数,大腸癌,胃底腺ポリポーシス,胃腺腫,十二指腸腺腫,乳頭腺腫,網膜色素上皮過形成,骨腫,デスモイドの有無)との関連を検討した.胃底腺ポリポーシスの有無でrs3820185のアレルC(OR2.50;95% CI 1.27-4.84;p=0.011)およびrs12746200のアレルG(OR 2.59;95% CI 1.06-6.35;p=0.034)の頻度が有意に異なっていた.他のSNPsと臨床徴候に有意な関係はみられなかった.rs3820185アレルCとrs12746200アレルGについて,性,年齢,APC変異,H.pylori感染の有無を調整したところ,これらは胃底腺ポリーポーシスの発生に有意な影響を及ぼさなかった.以上より、cPLA_2αはFAPの疾患修飾遺伝子である可能性は低いが、H.pyloriを介して胃粘膜増殖に影響を与える可能性が示唆された.
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