研究概要 |
我々は、メタロプロテアーゼのM16ファミリーに属するnardilysin(N-arginine dibasic convertase; NRDc)が、EGFファミリーに属するヘパリン結合性EGF様増殖因子(HB-EGF)の結合蛋白質であることを明らかにした(Nishi他EMBO. J, 2001)。HB-EGFは膜結合型の前駆体として生成され、細胞外ドメインシェディングを受けて分泌型(活性型)となる。NRDcのHB-EGF膜結合型前駆体への生理作用を検討する過程で,我々はNRDcがHB-EGFのシェディングを増強すること、この増強効果はTACEの活性化を介していることを明らかにした(Nishi他JBC, 2006)。NRDcはTACEと結合し、TACEの切断酵素活性を直接増強した。強調すべきは、シェディング誘導因子であるホルボールエステルがNRDcとTACEの複合体形成を増加することであり、これまで全くわかっていなかったADAM蛋白質、そして細胞外ドメインシェディングの活性化機構の一端を明らかにしたことである。更に、NRDcのシェディング増強効果はHB-EGFに限定されずTNF-α、アミロイド前駆体タンパク質(APP)など、広範な膜蛋白質に及ぶこと、NRDcはTACE以外のADAM蛋白質の活性も増強することを示し(Hiraoka他J. Neurochem, 2007, Hiraoka他BBRC, 2008)、NRDcが細胞外ドメインシェディングの普遍的な活性化因子である可能性を示唆した。 一方、我々の未発表データは、動脈硬化巣などの慢性炎症性疾患や、悪性疾患の病巣において、NRDcの発現が上昇していることを示している。前立腺癌の手術後標本を用いた詳細な検討では、NRDcの発現が、細胞の増殖マーカーの発現と非常に強い正の相関を示した。以上からNRDcは、TNF-αなどのサイトカインやEGFファミリーの増殖因子の細胞外ドメインシェディングによる活性化を介して,上記疾患群の進行に寄与している可能性が示唆された。これらをふまえ、今後個体レベルにおけるNRDcの生物学的機能を明らかにするため、NRDc欠損マウスの表現型解析を行う。
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