研究概要 |
急性肺損傷(ALI)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は重篤な呼吸不全であり,未だ有効な治療法が無く,その死亡率は依然として非常に高い,この疾患の病態には,肺胞上皮細胞の傷害とそれによって引き起こされるアポトーシスが大きくかかわっている,この肺胞上皮細胞のアポトーシスを,好中球エラスターゼがproteinase activated receptor(PAR)-1を介して惹起することを我々は報告した(Am J Respir Cell Mol Biol 2005;33:231-247)。また,それとは反対にPAR-2刺激が好中球の肺への遊走を抑制することを発見した,以上のことより,PAR-1/PAR-2のバランスが,急性肺損傷時の肺の病態に大きくかかわっていることが示唆された. そこで,急性肺損傷におけるPARの役割について,以下の3方向より研究を進めた. 1.臨床検体(急性肺損傷,間質性肺炎急性増悪症例)における検討 PAR-2のCleavedされるN末のpeptideに対する抗体を作成した.そしてこの抗体を用い,症例の気管支肺胞洗浄液中のPAR-2断片濃度を測定した.その結果,急性肺損傷時にPAR-2断片濃度が変化することを発見した.このことは,臨床の急性肺損傷においてもPARがその病態に関与していることを示している.現在,予後など臨床病態との関連を調べている. 2.培養気道上皮細胞を用いたin vitro study BEAS-2B細胞を,PAR-2 Activating peptideで刺激することにより,細胞増殖が促進されることを明らかにした.このことは,PAR-2の肺上皮細胞保護作用を示している.また,肺傷害後の組織修復にPAR-2が関与することも示唆する. 3.マウス急性肺傷害モデルを用いたin vivo study 我々が開発した急性肺損傷後の組織修復のモデルで,好中球エラスターゼの関与を検討した.このモデルでは,組織修復が正常に行われず,肺コンプライアンスの低下をもたらすことを明らかにした.しかし,この変化は好中球エラスターゼを阻害することにより抑制され,PARを介した肺組織修復の修飾が示唆された.このことより,PAR-1/PAR-2のバランスをコントロールすることによる肺組織修復の促進が期待でき,急性肺損傷の新規治療法開発に向け,研究を進めている.
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