研究概要 |
近年わが国の中年女性を中心に増え続けている「結節・気管支拡張型(NB型)肺MAC症」の成因とその予防・治療法を考えるための一助として,起炎菌であるMAC菌の病原性と薬剤感受性について検討した。NB型と結核類似型(TB型)肺MAC症患者から分離したMAC菌株(NB-MAC,TB-MAC)の供試菌株(各5株)について各種細胞内での増殖能について比較検討したところ,以下の成績が得られた。(1)NB-MAC,TB-MACのTHP-1,Mono Mac 6(MM6)およびU937ヒトマクロファージ(MΦ)内での増殖能を比較したところ,THP-1 MΦ, MM6 MΦ内での増殖能はNB-MACがTB-MACに比べてやや高かったが,有意差はみられなかった。他方,U937MΦ内での増殖能には差はみられなかった。(2)A-549ヒト肺胞上皮細胞内での増殖能についても,NB-MACがTB-MACに比べてやや高い傾向を認めたが,有意差はなかった。(3)NL20ヒト気管上皮細胞への侵入性と細胞内増殖能についてみたところ,何れもMB-MACがTB-MACに比べてやや高い傾向がみられたが,この場合も有意差はなかった。(4)7HSF培地中での培養では,MB-MACはTB-MACに比べてやや高い増殖能を示した。(5)THP-1 MΦに感染した揚合の活性酸素および活性酸化窒素産生能については,NB-およびTB-MAC間で差はみられなかった。(6)TB-MACはRFPとキノロンに対するMIC値がNB型MACに比べて1/4と低い傾向を認めたが,INH, rifabutin, EB, CAM, azithromycin, SM, AMKに対するMIC値に差はみられなかった。以上の成績から,薬剤感受性に若干の差はみられるものの,NB-MACとTB-MACとの間では,MΦ,肺胞上皮細胞,気管上皮細胞への感染性と細胞内増殖のプロフィールには本質的な差異はないこと,すなわちNB型とTB型のMAC症における病態の違いは,起炎菌側の差異に帰すことは出来ないことが明らかになった。
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