研究概要 |
単純ヘルペス脳炎の病態に炎症と酸化ストレスが影響し重症度に関与していると考えられることから,これらの機序を明らかにするため,また将来,炎症や酸化ストレスを緩和しコントロールすることによる組織保護を目的とした治療法を追加することを目的として,ヘルペス脳炎(HSE)6例,非ヘルペス性辺縁系脳炎(NHLE)9例,無菌性髄膜炎(AM)5例,急性散在性脳脊髄炎(ADEM)5例,非炎症性神経疾患(NIND)9例の髄液検体を用いて,IL-8,MIP-1α,RANTES,IP-10,MCP-1,sTNF-Rl,GM-CSFの7項目のケモカイン,サイトカインと酸化ストレスマーカー8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)をELISAにて測定した。検体はいずれも大阪医科大学第一内科入院中に患者の同意のもと髄液を採取して一般検査施行後に-80℃保存した検体を使用した。GM-CSFと8-OHdG以外の項目において,非ヘルペス性辺縁系脳炎,ヘルペス脳炎,無菌性髄膜炎,急性散在性脳脊髄炎の4群はいずれも測定可能で,中枢内の炎症,自己免疫機序による病態を反映していると考えられた。非ヘルペス性辺縁系脳炎,ヘルペス脳炎,無菌性髄膜炎の3群間では,MIP-1α,RANTESでは無菌性髄膜炎が高値を,IL-8では非ヘルペス性辺縁系脳炎で高くなる傾向が見られたが,ケモカインの上昇パターンに明らかな偏りは認められなかったが,急性散在性脳脊髄炎ではIP-10が最も高く,逆にMCP-1は最も低下し脱随疾患にみられるTh1優位パターンと考えられた。対象のうち9例で抗グルタミン受容体抗体(抗GluR抗体)が測定され5例で陽性(NHLE 3例,HSE 1例,ADEM 1例),4例で陰性(NHLE 3例,HSE 1例)であったので,抗GluR抗体陽性群と陰性群とでケモカイン値を比較し自己免疫機序の関与について検討した。その結果,抗GluR抗体陽性群では陰性群に比し全ての項目で高くなる傾向が認められた。このことは自己抗体産生に関連して中枢内でこれらケモカイン・サイトカインを介した炎症免疫反応が高まっていることが示唆された。
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