研究概要 |
1 (研究の背景)90%以上の脊髄性筋萎縮症(SMA)患者は,SMN1遺伝子が欠失している。しかし,同じSMN蛋白をコードしているSMN2遺伝子は残存している。SMN1遺伝子のエクソン7の6番目の塩基がCとなっているのに対し,SMN2遺伝子ではTとなっている。そのためにSMN1遺伝子の転写過程でエクソン7がスキップされることになり,完全な蛋白が産生されない。この事実より,SMAの治療戦略として,SMN2遺伝子のスプライシング制御が考えられるようになった。 2 (エクソン特異的スプライシング促進化合物)Cartegniらの報告に基づいて,SMN2遺伝子エクソン7のスプライシングを促進するペプチド核酸(PNA)を合成した。SMN2EX6-7プラスミドを用いた無細胞系の実験(in vitroスプライシング・アッセイ)で検討したところ,このPNA投与によってスプライシング効率は改善した。しかし,同ペプチド核酸をSMA患者由来の線維芽細胞に投与しても,SMN2遺伝子エクソン7のスプライシング効率の改善は認められなかった。 3 (バルプロ酸存在下での培養細胞スプライシング反応)SMA治療薬としてHDAC阻害剤,特にバルプロ酸(VPA)が注目されている。私たちは,SMA患者由来の線維芽細胞を培養し,バルプロ酸のSMN2遺伝子の転写,エクソン7のスプライシングに対する効果を定量的PCRで検討した。検討したVPA濃度は,0.5〜1000uMの範囲にあった。各種濃度のVPAを投与する前,および投与後16時間での転写効率,スプライシング効率をリアルタイムPCR法で比較したが,有意な変化は認められなかった。VPAの有効性は患者によって異なる事が示唆された。
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