研究概要 |
統合失調症や大麻摂取で最も治療困難であり問題となるのは,感情の平板化,無関心,自閉など精神機能の減退を現す陰性症状である.特に社会的引きこもりや自閉など社会的行動の障害は,治療上問題となるばかりではなく,社会生活を営むことができないため,本人ばかりではなく,家族にとっても,精神的にも経済的にも負担となるものである.ところが,社会的行動の障害に関して十分な発症原因の解明は行われていないのが現状である.そこで本研究では,大麻摂取や統合失調症による社会的行動の障害に着目し,その発症機序の解明を追究した.その結果,我々は,大麻の活性成分THCの投与およびV1a受容体欠損マウスにおいて社会的行動障害が発現することを明らかにした.さらに,これらの障害は不安によって起こるものではないこともわかり,社会的行動障害の動物モデルを作成することができた.さらに,我々はV1a受容体欠損マウスの幼若期における行動の変化についても検討を行い,V1a受容体欠損マウスは開眼率や体重など成長に変化はないが,低不安は幼若期よりみられること,社会的行動障害は幼若期では発現していないことなどを見出し,このマウスは自閉症よりむしろ統合失調症の動物モデルであることを明らかにした.一方,THCの投与で発現される情報処理障害,うつ症状,空間認知障害および意識レベル低下が社会的行動に影響していることが考えられるため,これらの症状について詳細な検討を行った.そしてそれぞれの症状の発現機序が異なっており,改善する薬剤が異なることを明らかにした.さらに,THCによる社会的行動障害はCB1受容体を介しており,抗うつ薬,抗精神病薬および5-HTIA受容体作用薬の急性投与では改善されないことがわかった.一方,V1a欠損マウスにおける社会的行動障害も抗うつ薬などの急性投与では改善されなかった.これらのことから,これらの社会的行動障害は慢性投与による治療効果が必要であると考えられた.
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