研究概要 |
エラスターゼ注入ラット動脈瘤モデルに対して,bFGF含有ゼラチンスポンジシート(Gelatin sponge sheet:GSS)を用いて,大動脈瘤の進展に対する影響を検討した。 bFGF至適量を検討するため,bFGF量1,10,100μgと,非治療群,GSS単独治療群で効果を検討した。ラットAAAモデル作成後にGSSを腹部大動脈の前面におき,7日後の効果を検討した。GSS単独群,bFGF1μg群,10μg群では非治療群と比較して大動脈径拡大が有意に抑制されていた。一方,bFGF量が10,100μgと増加するにつれて大動脈の破裂が増加した。組織学的には,bFGF含有群で中膜平滑筋細胞が有意に多かった。大動脈瘤進展の抑制には低用量bFGFが最も適しており,高用量bFGFは大動脈壁破壊を助長している可能性が示唆された。また,ヒト大動脈瘤では見られない壊死性変化を広範に認めたため,より緩徐に進展する大動脈瘤モデルを作成し、長期の治療効果を検討するため,効果判定を14日後に行った。bFGFの含有量の再設定を行い,bFGFの含有量を100ngに設定した。14日目の大動脈径はGSS群ならびにbFGF+GSS群において,非治療群と比較して大動脈径の拡大が有意に抑制されていた。組織学的にはbFGF+GSS群において最も弾性線維,中膜平滑筋細胞数が保たれていた。 GSS単独群においても,病理学組織学的所見に改善傾向を認めたため,内因性のTGF-b,bFGFの免疫染色を行ったところ,GSS群とbFGF+GSS群両者で陽性細胞を多く認めた。RNA発現の検討では,bFGF+GSS群におけるMMP-9のRNA発現が,他の2群と比較して有意に低下していた。さらに,エラスターゼを75分注入したモデルにおいて治療効果を検討したところ,非治療群では50%に大動脈の破裂を認めたのに対して,bFGF+GSS群では破裂率は22%であった。 以上より,低用量のbFGFだけでなくGSSもラットAAAの進展を抑制効果があることが明らかとなった。GSSは分解される過程で内因性の成長因子の産生を誘導し,これが大動脈瘤の進展を抑制する1つの要因であることが示唆された。また,bFGFは平滑筋細胞の増殖を促進し,さらにMMP-9のRNA発現を抑制することによって,弾性線維の破壊を抑え,破裂を抑制している可能性が示唆された。
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