研究概要 |
let-7はmicro RNAで,この発現減弱がヒト癌遺伝子K-rasの蛋白の過剰発現を起こすことが報告された.このK-ras蛋白の過剰発現は,様々なシグナル系を介し,腫瘍増殖及び血管新生を促進する.そこで,我々はlet-7発現誘導ウィルスベクターによる癌遺伝子治療の研究を行ってきた.まず,ヒト癌細胞株におけるlet-7発現を評価するために,様々なヒト癌細胞株におけるlet-7発現を測定し,A549がlet-7保持癌細胞株で,MAC10がlet-7低発現癌細胞株と判定した.我々はlet-7発現誘導ベクターの作製を,shRNA(short hairpin RNA)タイプで行った.let-7配列を含むshRNA配列を,pBApo-CMVベクターに組込み,let-7発現プラスミドベクターMIR09を作製した.このMIR09ベクターをリポフェクション法によりlet-7低発現細胞株MAC10にトランスフェクションしたところ,let-7発現の誘導が良好にみられた.そこで,我々は更let-7発現アデノウィルスベクターの作製も行った.このMIR09ベクターからEcoR Vで「CMV IE promoter+shRNA配列」を切出し,pAxcwitコスミドベクターに組入れ,COS-TPC法によりlet-7発現アデノウィルスベクターlet7-Ad5を作製した.ベクターの構造確認とlet-7の発現誘導を確認後,このlet7-Ad5ベクターを塩化セシウム法で濃縮・精製した.In vitroの遺伝子治療実験として,1et-7低発現癌細胞株MAC10にこのlet7-Ad5ベクターを導入したところ,let-7の発現誘導とMTTアッセイにおける癌細胞増殖抑制効果がみられた.そして,その機序として,let-7誘導によるK-ras蛋白とc-Myc蛋白の発現抑制が示された.現在,他のlet-7低発現癌細胞株を用いて,このlet-7誘導ベクターによる抗腫瘍効果を追加検討中である.更に我々はMAC10細胞をヌードマウスに移植し担癌モデルを作製し,let-7誘導ベクターによるin vivo遺伝子治療実験も行っており,現在ベクターの投与量を含めて追加実験中である.
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