研究概要 |
局所麻酔薬は,神経軸索の細胞膜を通って細胞内へ入り,イオン化して細胞内からナトリウム(Na)チャネルに作用してブロックを起こすが,硬膜外麻酔に使用するリドカイン濃度は,ブピバカイン濃度の4倍である。ザリガニの巨大軸索に微小ガラス電極および局所麻酔薬感受性ガラス電極を刺入して,活動電位と最大加速度(dV/dtmax)および細胞内局所麻酔薬濃度を測定したところ,Phasic block(使用依存性ブロック)はブピバカインで低濃度から効果的に起こること,ブロックを起こすときの神経細胞内リドカイン濃度はブピバカイン濃度のll〜16倍であることが明らかになった。局所麻酔薬によって,細胞内/外濃度比が異なることから,Naチャネル以外の作用様式が加わっていると考えられた。そこで,局所麻酔作用があり,特定の受容体に作用せず,非特異的に作用するジメチルスルホオキサイド(DMSO)を用いて,さらに検討した。DMSOは0.2%では効果がないが,0.5%以上の濃度では濃度依存性にdV/dt maxを減少させた。リドカイン1mMに0.2%DMSOを加えると,リドカイン1mMのときよりdV/dtmaxの減少は有意に大きくなるが,リドカインの細胞内/外濃度比には差がないことが明らかになった。細胞内リドカイン濃度を増加させなくても,ブロック効果を増強させることができる。局所麻酔作用には,細胞内からイオン型局所麻酔薬がNaチャネルをブロックする作用だけでなく,それ以外の要因も加わっていることが判明した。日本人研究者Narahashiによって,局所麻酔薬の作用機序は,イオン型局所麻酔薬による細胞内からのNaチャネルブロックであるといわれてきたが,それ以外にまだ解明されていない作用機序がある。同僚は,これらの解明を進めている(Onizukaら:Anesth Analg 106:1465,2008)
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