研究概要 |
本研究では麻酔薬による耽溺性の細胞レベルおよび神経ネットワークでのメカニズム解明の手がかりとすることを目的として、静脈麻酔薬の一つであるpropofolが、薬物依存と関係が深いと考えられている腹側被蓋野(ventral tegmental area ; VTA)ドパミンニューロンの興奮性に及ぼす作用を、平成18年度はラット脳スライスを用いたパッチクランプ法を用いて検討し、平成19年度はラット脳スライスにおけるドパミン放出に及ぼす影響と、VTAにおけるシナプス伝達への影響について検討した。 生後14~21日のラットからVTAを含むスライスを作成し0.5~50μMのpropofolを潅流液中に加算的に加えて電流固定法および電位固定法を用いて細胞の興奮性を検討した。propofolはGABA受容体を活性化させることから、GABA受容体アゴニストであるTHIP(4,5,6,7-tetrahydroisoxazolo [5,4-c] pyridine-3-ol, 3 and 30μM)を用いて同様の実験を行った。膜電流固定法において0.5~50μMの低濃度のpropofolよって8/18個のVTAニューロンが活動電位の発生頻度を増加させた(control : 9.3±4.2 spikes/min, 0.5μM : 27.5±10.1 spikes/min, 5μM : 19.0±8.2 spikes/min, washout : 1.8±0.8 spikes/min, p<0.05)。他の10個のニューロンでは活動電位の頻度は不変ないし軽度に減少した(control : 0.75±0.71 spikes/mim, 0.5μM : 0.43±0.37 spikes/min, 5μM :0.06±0.04 spikes/min, washout : almost no spikes, p>0.05)。propofolによって活動電位が増加したニューロンはそうでないものに比べ有意に膜電位が浅く活動電位の頻度が多かった。THIPにおいても同様の結果が得られた。膜電位固定法において低濃度のプロポフオールは有意に内向き電流を増加させ、Kチャネルを抑制している可能性が示唆された。 生後17~25日齢ラットからVTAおよびVTAドパミンニューロンの投射先である側坐核を含む脳スライスを作成しチャンバー内に静置した。人工脳脊髄液(aCSF)に0.5~50μMのpropofolを加算的に加え還流し、5分毎に分注した。後に高速液体クロマトグラフを用いてaCSF中に含まれるドパミンとセロトニンを定量した。ドパミンおよびセロトニンは検出可能であったが、propofolによるこれら神経伝達物質放出に及ぼす一定の影響は見出せなかった。また、当初計画していた炭素電極を用いたamperometry法による脳スライスに対する神経近傍のおよび側坐核でのドパミン遊離測定は、技術的に困難であり十数回の試行の後断念した。 本研究の一部は2007年北米麻酔科学会にポスター演題として発表し、英文学術誌への投稿準備中である。
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