研究概要 |
放射線照射して骨髄をGFP-transgenic細胞で置換した雌NOD/SCIDマウスでは,妊娠初期に脱落膜内の受精卵周囲にGFP(母体骨髄由来)陽性細胞が集簇し,妊娠3週には胎盤内でGFP陽性細胞は血管様の管腔を形成した。妊娠時の胎盤内血管新生には骨髄由来の細胞が関与している可能性が示唆された。 正常の雌NOD/SCIDマウスと雄CL57BL/6マウスとを掛け合わせて出来たキメラマウスでは,妊娠2〜3週に腎臓内にGFP陽性細胞が発現し,産褥には尿細管上皮に分化していた。胎児由来の細胞は母体の腎臓において組織幹細胞として作用している可能性がある。成獣では免疫染色法によって広範囲にangiotensin受容体subtypel(AT1)が発現する腎臓において,GFP陽性細胞はsubtype2(AT2)を強く発現していた。母体血中に経胎盤的に流入した胎児由来の細胞の一部は,直接母体臓器の細胞に分化するだけでなく,AT1・AT2のcrosstalkを介して妊振の生理もしくは何らかの病態形成に関与している可能性が考えられる。 末梢血中のcirculating EPC(血管内皮前駆細胞)は,分泌期から妊娠初期におけて増加し,妊娠経過とともに減少した。妊娠高血圧症候群(PIH)患者の末梢血中におけるcirculating EPC数は正常妊婦のそれと変わらなかったが,1週間培養するとPIH患者由来のEPC数は著明に増加した。VEGFはEPCの走化性を充進したが,この作用がPIHで血清中に増加するsFlt-1によって阻害されたため,PIHにおいてEPCの増殖能は亢進しているが,血清因子(sFlt-1など)が骨髄から末梢血への動員を阻害しているのではないかと考えられた。
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