研究課題
基盤研究(C)
近年、転写因子FoxA1が乳腺のluminal cellの分化マーカーとして同定された。FoxA1の発現の高い乳癌は予後が良いことが報告されているが、一方で、食道癌や肺癌ではFoxA1の遺伝子増幅が見つかっている。したがって、FoxA1は癌の進展を促進するのか、抑制するのかについては結論が得られていない。本研究課題で我々は、ヒト乳癌細胞株35種における遺伝子発現プロファイルを解析し(Ito et al, 2007)、10種類全てのErbB2陽性乳癌細胞株と12種類のErbB2陰性乳癌細胞株においてFoxA1が高く発現していることを見いだした。次に、RNAiを用いてFoxA1の発現を抑制して増殖を調べたところ、いずれのタイプの癌細胞株もFoxA1に依存して増殖することが示された。特に、ErbB2陽性でハーセプチンに抵抗性を示す細胞株でも、FoxA1のノックダウンにより増殖が抑制された。以上の結果から、FoxA1が乳癌の分子標的治療薬の新たなターゲットになることが示唆された(Yamaguchi et al, BBRC, 2008)。さらに、35種類の乳癌細胞株の中で細胞増殖、血管新生、細胞運動の促進に関わる転写因子であるNF-κBの活性化をゲルシフト法で検討し、NF-κBの高活性化細胞8種類のうち、7種類は乳癌の中で最も悪性度の高いbasal typeであった(basal type全体は14例)。このNF-κBの恒常的活性化の機構を調べ、一部についてはNIKの発現昂進が関与していることを明らかにし、NIKが悪性度の高いbasal type乳癌の新たな分子標的となりうることを示した(Yamaguchi et al, Cancer Science, in press)。
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