研究課題
基盤研究(C)
卵巣癌播種性転移は原発巣からの離脱、酸素供給を欠いた状態での生存、腹膜への接着および増殖という過程からなることから、我々は低酸素環境に注目した。卵巣癌細胞を低酸素下で培養するとHIF-1α発現が誘導され、それに相関してE-cadherin発現低下および浸潤能が亢進することを見出した。そこで、低酸素環境における卵巣癌細胞の浸潤能亢進機序を解析する目的で、E-cadherin転写抑制因子の発現調節機構を解析した。まず、卵巣癌細胞株SKOV3を正常酸素濃度(20%O_2)と低酸素環境下(1%O_2)で培養し、HIF-1α, HIF-2α, E-cadherinおよびE-cadherinの転写抑制因子であるSnail, SIP1, TWISTの発現を検討したところ、低酸素下においてSKOV3細胞のE-cadherin発現は減弱し、HIF-1αおよびHIF-2αの発現が誘導され、それと同時にE-cadherin転写抑制因子のなかでSnailの発現は増加した。Snail遺伝子のprmoter領域には転写因子HIFが結合するhypoxia responsive element(HRE)のDNA配列が存在していることから、プロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子につなぎ、レポーターアッセイを行ったところ、低酸素下ではSnailの転写活性は正常酸素下と比べて増加した。siRNAにてHIF-1αおよびHIF-2αを抑制すると低酸素環境下でのSnailの発現亢進が抑制された。同時に卵巣癌細胞の浸潤能も抑制された。このことから、卵巣癌細胞の低酸素下における、浸潤能促進においてSnailが重要な働きをしている可能性が示唆された。低酸素環境は、Snail発現を誘導し卵巣癌細胞を上皮性性質から中皮性性質へ転換させている可能性が示唆された。
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