研究概要 |
平成18年度は,子宮内膜症患者腹水中に高濃度に存在する細菌性エンドトキシンが,その特異的受容体であるTLR4を介して内膜症の増殖に関与していることを明らかにした.平成19年度の研究では,内膜症患者の月経血あるいは腹水中の細菌性エンドトキシンの由来に関して実験を行った.Eschericbia coli(E.coli,strain K-12,serotype,0111:B4)をLB(Laria-Bertani)培地で培養し,PGE2処理による大腸菌の増殖性の変化を検討した.内膜症患者の月経血には,非内膜症患者のそれらと比較して有意に高い濃度のE.coliが存在し(10^5-10^7CFU/ml vs.<10^2CFU/ml),また,内膜症患者の月経血中では,E.coliの細胞壁構成成分であるエンドトキシンも有意に高い濃で認められた.E.coliの増殖は,種々の濃度のPGE2添加処理(1pg/ml〜100ng/ml)により,非添加処理群に比較して有意に亢進した.内膜症患者の月経血中のPGE2濃度は,非内膜症患者の月経血(陰性コントロール)あるいは精漿(陽性コントロール)に比較して有意に高いことが認められた.内膜症および非内膜症患者の末梢血からリンパ球を分離培養しPHA(1μg/ml〜100μg/ml)を添加したところ,両群で濃度依存的なリンパ球の増殖が認められた.それらにPGE2を添加したところリンパ球の増殖が抑制され,その抑制作用は子宮内膜症患者由来のリンパ球培養系でのみ認められた.内膜症患者の腹水あるいは子宮内膜からマクロファージあるいは内膜間質細胞を分離培養し,その培養上清をPHA添加リンパ球培養系に添加したところ,PHAのリンパ球増殖刺激作用が有意に制され,これらは選択的COX2阻害剤であるNS-398の添加で消失した.内膜症患者月経血中では,補体C3/C4濃度は低く,月経血中のE.coliの増殖に関与していることが示唆された.上記の結果から,内膜症患者の月経血中に高濃度に存在するPGE2が,その直接的な増殖刺激作用,あるいは免疫抑制作用により補体系とともに間接的に月経血でのE.coliの混入を促進していることが考えられ,結果的に腹水中の細菌性エンドトキシン濃度の充進させ,TLR4を介した子宮内膜症の増殖・進展に関与していることが示唆された.
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