研究概要 |
マウスのビタミンE(VE)欠損モデルを用いて,網膜の加齢におけるVEの役割を評価した。 α-Tocopherol transfer protein欠損マウス(a-TTP^<-/->)をVE欠乏食で4ケ月,或いは8ケ月飼育した(VE(-)群)。C57/BL6マウス(wild type)は0.002%α-tocopherol補助食で飼育した(VE(+))。眼組織中のVE量,脂肪酸組成,そして酸化ストレスの生体マーカーであるHydroxyoctadecadienoic acid(HODE)と8-iso-Prostaglandin F_<2α>(8-iso-PGF_<2α>)量を測定し、網膜の構造を光学および電子顕微鏡で観察した。 4ケ月齢のVE(-)群の網膜に含まれるα-TocopherolはVE(+)群よりも71倍少なかった。またγ-Tocopherolは検出されなかったためVE(-)群は厳密にVEが欠乏した状態であると判断された。この群では,n-3の不飽和脂肪酸が減少していたのに対し,他の脂肪酸は不変もしくは増加していた。18ケ月齢では,VE(-)群の外顆粒層(ONL)の核がVE(+)群より17%減少していた。電子顕微鏡で観察すると,VE(-)群ではONLの核の間のマトリックスが増加していた。また,杵体の外節が膨張し,網膜色素上皮細胞(RPE)内に多数の含有物が見られた。蛍光顕微鏡で観察するとVE(-)群のRPEで自家蛍光が増大していた。4ケ月齢と比較すると,18ケ月齢のマウスでは両群でHODEと8-iso-PGF_<2α>が網膜とRPEで増加していた。しかし,加齢による変化はVE(+)群よりもVE(-)群でより顕著であった。 a-TTP^<-/->マウスにVE(-)欠乏食を与えることにより厳密なVE欠損モデルを作り出すことが出来た。VE欠損は網膜の脂質過酸化を増強し,加齢に伴う網膜の変性を促進することが明らかとなった。以上の結果より、網膜内のVEを増加させる事で網膜変性を抑制できる可能性が示唆され、VE点眼の有用性が高まった。
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