研究概要 |
口腔連鎖球菌Streptococcus intermedius (SI)が細胞溶解毒素インターメディリシン(ILY)に依存して示すヒト細胞特異的な感染現象を解明するため、ヒト肝癌細胞HepG2等の培養細胞に対してILY及びSI菌体が及ぼす影響を解析した。HepG2にSIを感染させて電子顕微鏡観察したところ,細胞表面の微絨毛と菌体の顕著な結合が見られたことから,SIの細胞侵入に細胞骨格ネットワークの関与が考えられた。そこでアクチン等に対する蛍光化抗体を用いて観察を行った結果,SI感染の進行とともに細胞内アクチンのネットワーク変化が明らかになった。また同細胞の受容体チロシンキナーゼ71種類のリン酸化動態を解析した結果,低濃度のILYによりEGF受容体のリン酸化が5倍程亢進することが確認された。EGF受容体はラフト中でILY受容体huCD59と相互作用することや,EGF受容体からのシグナルはFAK系やRho系を介してアクチン等の細胞骨格系の制御に関わることが知られており,ILY依存性のヒト細胞特異的なSI感染現象にEGF受容体を介したシグナリングが関わる可能性が強く示唆された。またPLA2阻害剤の処理でSI感染による細胞致死が阻害されたことから,これら両シグナル経路とSI感染の関連性をさらに検討中である。またLC3をマーカーとして,SI感染でオートファジーが誘導されるかも検討したが,感染初期のHepG2で顕著なLC3増加は認められなかった。 さらに個体や臓器レベルでSI感染機構を検討するため,huCD59トランスジェニックマウスの作成を行った。マウス型CD59aプロモーター/huCD59のORF/ポリAシグナルを持つ遺伝子断片をC57BL/6マウス受精卵に注入し,2匹のhuCD59トランスジェニック個体を得た。今後これらのホモ系統を樹立し,それを使った解析も行う予定である。
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