研究概要 |
本研究の目的は,認知症高齢者とのコミュニケーション促進と生活の質の向上を目指して,「認知症高齢者とのコミュニケーション促進プログラム(声かけプラン)」の効果検証および療養環境音調整指針を作成することであった. 対象者9名のうち高齢者の生活歴や性格,好みを重視した「声かけ促進シート(声かけプラン)」を7名に作成し,ケア場面で3ケ月間使用すると,不穏,興奮状態に陥りやすい高齢者の「コミュニケーション」および「落ち着き」得点が有意に上昇したが,意欲低下やコントロールの2名では変化が認められなかった.調査対象者のうち,入院などを理由に介入期間に中断した3名を分析から除外したが,要介護高齢者を対象とした研究では,このような事態を予測することも必要であった.このためこのシートが,認知症高齢者全般に有効であるというエビデンスは得らなかったが,中核症状として不穏・興奮のある高齢者には有効である可能性が示唆された.また,シートの活用が,カンファレンスとは異なるスタッフ同士の情報交換・共有の機会となり,その後,ケアスタッフが自主的にシートを作成しケアに活用しているのを確認している. 特養及びグループホームの24時間騒音と認知症高齢者10名を対象に3種類の音楽の印象と血圧・心拍変動の関連を調査した結果から環境音調整指針を作成した.騒音実態では,介護老人福祉施設はグループホームに比べてやや騒がしく,日常生活雑音に混ざり、高齢者の大声や日常生活援助に伴うスニーカーの靴底がすれる音,椅子を引く音,テレビの音量などケアスタッフの意識づけにより即座に改善可能な騒音と,ハード面の改善を要するものに分類された.70dB以上の突発音が続くと不穏になる者があった.環境音を整えるためには高齢者に残された感覚機能(聴力,視力他)および理解力を正確にアセスメントし,療養環境にあふれる多様な音が個々にどのように影響しているのかを十分に吟味する必要があった.
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