研究課題
基盤研究(C)
ATPを脊髄くも膜下腔内に投与すると、持続時間の短い機械的痛覚過敏が惹起され(〜20分)、引き続き、投与15〜30分後にアロディニアが誘導され、その後3〜4週間持続する長期持続性アロディニアが惹起された。本モデルでの脊髄内グリア細胞の活性化の経時変化を検討したところ、ミクログリアは比較的早い時期(誘導〜移行期)、少し遅れてアストロサイトが活性化された(移行〜維持期)が、その後、アロディニアは持続しているにも拘わらず、どちらも定常状態に戻りつつあった。さらにミクログリアおよびアストロサイトの活性化阻害薬、および数種のMAPK阻害薬を用いた検討などから、それぞれの活性化状態を示す時期と対応してアロディニアの惹起に関与することを示した。これらは、脊髄内のミクログリアは主に慢性疼痛の誘導に、アストロサイトは慢性疼痛への移行に関与することを示している。また、主にアストロサイトに発現するグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-1は、炎症性疼痛モデルおよび神経因性疼モデルにおいて、その発現量あるいは細胞膜における局在量が減少していた。組込えアデノウイルスを用いて脊髄内にGLT-1遺伝子を導入すると、急性痛に対しては影響を与えないものの、炎症性疼痛や神経因性疼痛の発症をほぼ抑制した。これらの結果は、アストロサイトによるGLT-1を介したグルタミン酸取り込み機構の破綻が、慢性疼痛発症に重要な役割を果たしていることを示す。さらに、このGLT-1局在変化の分子機構を明らかにするため、GLT-1-EGFP融合タンパク質を導入できる組換えアデノウイルスを作成し、培養神経-グリア共培養系を用いてタイムラプス顕微鏡下でアストロサイトでのGLT-1の局在変化を解析した。その結果、グルタミン酸の処置によりGLT-1は1時間以内に細胞内に移行しクラスター状に集積すること、また、GLT-1を介したNa^+流入が必須であることを明らかにした。
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