研究概要 |
昨年度に引き続き更なるデータ解析と,化膿創治療を中心とした専攻論文のレビューを実施した.インドネシア大学微生物研究所によれば,2003年にジャカルタで化膿創から分離された主な細菌はStaphylococcus aureus(14%)であった緊急援助隊医療チーム(JDR)においても化膿創の主な起因菌がS.aureusという前提でβ-ラクタム系ペニシリンが使用されていた.一方,海外の河川や海洋等での事故による外傷治療において,Aeromonas spp.を起因菌とする感染例が見られたとの報告が数件あるが,日本では,河川等での事故による外傷のempirical therapyにおいて,Aeromonas spp.が起因菌の一つとして考慮されることはほとんどない.また,Aeromonas spp.を起因菌とする創部感染は,S.aureusによるものと症状による区別がつきにくく,β-ラクタム系ペニシリンに耐性のものが多く治療が困難である.そこで,適切な治療薬の早期使用を可能とするためには,グラム染色の実施が重要な鍵となる.更に,バンダアチェにおける環境水調査と被災者を対象に実施した質的調査から,負傷した被災者は水浴びなどで治療中もAeromonas spp., Klebsiela spp., Vibrio spp.に暴露し続けていたことが明らかとなった. 起因菌の同定またはグラム染色ができない状況下での望ましい治療とは,S. aureusを想定して,第一選択薬としてβ-ラクタム系ペニシリンを3日間投与し,効果が認められなかった場合には,起因菌としてグラム陰性菌もしくは第一選択薬に耐性のある細菌を想定し,ニューキノロン系薬剤を使用することであるとの結論を得た.JDRのような緊急医療救援に関わるチームは,グラム染色実施の機材と十分な量のニューキノロン系薬剤を現場に携行することが強く推奨される.
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