研究概要 |
近年,損傷を受けた組織や臓器の再生を目的とした組織工学が注目され,体内での細胞増殖を支持し,組織再生に伴い分解消失する優れた生分解性材料の開発が切望されている。生分解性高分子であるポリ-L-乳酸(PLLA)から成型した材料は良好な細胞接着性と増殖性を示し,組織工学用足場材料としての応用が期待されるが,高結晶性に起因して硬くて脆いという材料特性を示すため,その適応部位は硬組織に限られる。従って,軟組織に適合し優れた組織再生の足場となるポリ乳酸系材料の開発が求められる。柔軟性や伸縮性などの力学物性を示す組織再生用足場材料の開発を目的として,本年度は,昨年度に合成方法を確立したデプシペプチドとDL-ラクチドから成るランダム共重合体(poly[{Glc-Asp}-γ-DL-LA])にコレステロール基を導入したコンジュゲート(poly[{GlG-Asp}-γ-DL-LA]-cholesterol)を合成し,キャストフィルムを調製し,その生理条件下での分解挙動,力学物性を評価した。その結果,poly[{Glc-Asp}-γ-DL-LA]の親水性カルボキシル基をコレステロール基で置換したpoly[{Glc-Asp}-γ-DL-LA]-cholesterolは,ポリpoly[{Glc-Asp}-γ-DL-LA]フィルムに比べて分解速度は緩慢であり,親水基の残存率による加水分解速度が調節できることが分かった。また,コンジュゲートフィルムのTgは低く,引っ張り試験を行ったところ,ポリ(DL-乳酸)フィルムに比べてコンジュゲートフィルムは柔軟で,弾性変形領域が比較的広いという知見を得た。今回合成したコンジュゲートフィルムは柔軟性と粘り強さを併せ持ち,生体内で分解吸収されるソフトバイオマテリアルとして興味深い素材であると言える。
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