研究課題
萌芽研究
平成20年度は、通常歩行を対象動作とし、身体感覚を獲得する運動実践の現場で用いられている一本歯下駄歩行の効果について、裸足とウォーキングシューズとの比較で、バイオメカニクスの観点から検討した。実験は、長さ10mの室内走路において、次の3条件の通常歩行動作を、それぞれ10試行ずつ行った。1:裸足、2:ジョギングシューズ、3:一本歯下駄。フォースプレートと3次元モーションキャプチャシステムによってデータを収集し、それを基にリンクセグメントモデルを構築して右脚の下肢3関節の発揮トルクを推定した。フォースプレートは1000Hz、モーションキャプチャは200Hzで取得後、200Hzで統一して分析した。その結果、下駄歩行は他の2条件歩行に比べて、股関節が常に若干屈曲しており、膝関節は着地であまり伸展させずに接地中は屈曲が深い。さらに、足および足指関節の動きは小さいものであった。つまり、一本歯下駄を履くことによって、下肢4関節の可動範囲が通常歩行よりも狭められて運動していた。一方、運動力学的変数から下駄歩行をみると、他の2条件歩行に比べて、垂直床反力の第1ピークがかなり大きく、股および膝関節トルクの着地直後のピーク値は大きいものとなっていた。特に、足関節トルクは着地直後に大きなピーク値が認められた。以上より、一本歯下駄の効果は、足指関節の可動範囲を大きくするといった特徴をもつ草鞋(深代ら2007)とは逆に、下肢の関節可動範囲を抑えて、力の発揮のしかたを調整しているととらえられた。このようなバイオメカニカルな特徴を考慮の上で、草鞋や一本歯下駄などを使用して運動すれば、本来人間がもっている身体感覚をより効果的に育むことができるのではないかと考えられた。
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