研究概要 |
一検体のDNAに対して多数のPCR反応を同時に行う"マルチプレックスPCR法"が確立されればその増幅パターン解析のみで増幅元DNAの同定が可能になる.この系の確立は,医療分野における新たな検査・診断法や環境・食品分野での簡便な検定試験法への応用など,産業界に大きなインパクトを与えうる.本研究課題では,DNA相同組換えを行う酵素群を利用してPCRの初期反応を制御することにより,高精度なマルチプレックスPCR法を確立することを目的としている. 平成19年度は主にRecA蛋白質の対合反応を調節しているRecF,RecO,RecR,SSB蛋白質を調製し,それらのPCR反応に対する効果を調べた.特にSSBはDNAの二次構造を緩和する性質があるため,二次構造を形成しやすいDNA領域に対する効果が期待された.しかしながら,SSBは強くPCR反応を阻害し,期待された効果は得られなかった.この問題を解決すべく,RecO,RecRの単鎖DNA上に存在するSSBに対する効果について解析したところ,1)RecOは単鎖DNA上でSSBと入れ替わること.2)入れ替わったSSBはRecOを介して単鎖DNA上に留まっていること.3)単鎖DNA上のRecOにRecRが相互作用するとRecOからSSBが解離すること.4)その結果生じたRecOR複合体はSSBで覆われた単鎖DNA上にRecAフィラメントの形成を促すことが明らかになった.これらのことから,これら蛋白質群を適した比率でPCR反応に加えることにより,これまで不可能であった高次構造を取りやすい領域のPCR増幅が可能になることが示唆された.
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