研究課題/領域番号 |
18652022
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研究種目 |
萌芽研究
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
日本文学
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保 勇 千葉大学, 大学院・人文社会科学研究科, 助教 (10323437)
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研究期間 (年度) |
2006 – 2008
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研究課題ステータス |
完了 (2008年度)
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配分額 *注記 |
1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
2008年度: 200千円 (直接経費: 200千円)
2007年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2006年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
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キーワード | 軍記 / 戦争 / 源氏 / 酒呑童子 / 延暦寺 / 武装表現 / 後三年合戦 / 異類退治 / 斬首 / 平家物語 / 将門記 / 陸奥話記 / 奥州後三年記 / 女性 / 前九年合戦 / 死刑 |
研究概要 |
「戦争被害」をもたらす〈武力〉が、戦争を描く軍記物語以外でいかに描かれているか問題化し、『大江山絵詞』(逸翁美術館蔵本)を対象として研究をおこなった。得られた新たな知見は以下の通りである。1、逸翁本の酒天童子は、王土内に位置づけられる「異類」であり、圧倒的武力を有した「朝敵」ではなく、「王威」と「仏力」に及ばぬ存在として設定されている。また、「痘瘡神」といった固定したイメージよりも「三災」をもたらす存在として、理想的政道観と関わって描出されている。2、軍記物語の異類退治譜における源氏のく武〉の表現(頼政鵡退治)と較ぺると、その話型は近似している。ただし、逸翁本では頼光の〈武〉は押し出されず、むしろ保昌の〈武〉が他の酒呑童子説話と比して独自に強調される(「虎皮の尻鞘」の武装表現)。また、頼光に関わっては、他の説話で加えられる刀剣説話を導入せず、その眼光が「五色の光」(=衆生救済)を放つことを独自に加え、仏教の法力を備えたく武〉の存在として造型されている。3、逸翁本の比叡山延暦寺内成立説は半ば通説であるが、より具体的に検証すれば、牢に捕らえられた人々を解放する場面は、法華経読諭による救済、鉄石の寵の描写、竜樹菩薩への言及(絵画、別巻詞書)などを根拠として、天台宗における独自な「南天鉄療説」(『渓嵐拾葉集』)の影響下にあると想定される。天台では「三味流最極ノ秘伝」(『渓嵐拾菓集』「四箇大秘法」)とされ広く流布しなかった説だが、頼光らにより人々が酒天童子から解放される場面は「仏法(法性)の発見」の隠喩であり、牧野和夫氏が検討された『無明法性合戦状』と通じる可能性がある。逸翁本は、酒呑童子説話としては現存最古の作品とされるが、以降の酒呑童子説話に加えられていく英雄的なく武〉の表現とは一線を画しており、逸翁本の位置を確認することにより、一四世紀の〈武〉の表現を考察する指標を得た。
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