研究概要 |
本研究の目的は,視対象を観察するときの姿勢や視線方向が,その対象の知覚や認知過程に与える影響を定量的に明らかにすることであった.昨年度に行った実験により,姿勢の違いにより図形知覚に影響があること,そしてその影響は対象の図形およびそれに対する課題によって異なることが明らかになった.本年度においては,特に視覚対象の刺激パラメータと姿勢を制御して実験を行い,重力方向知覚のための前庭・体性感覚情報と視覚情報の統合特性の定量的な記述とそのメカニズムの同定を目指した. 上記目的のため,研究代表者の金子寛彦は研究室に所属する大学院生とともに,被験者の体を傾けた条件と傾けない条件において,視覚清報が示す重力方向と実際の重力方向を矛盾させて呈示したときの重力方向知覚を複数の視覚刺激を用いて測定した.結果として,視覚情報の示す重力方向が実際の重力方向と近い条件では重力方向知覚は視覚情報に強く影響を受けたが,その矛盾が大きくなっていくと視覚情報の影響は小さくなることが明らかになった.そして,視覚情報の影響は刺激の内容に大きく依存した.また,身体の傾きがある場合において重力方向知覚に与える視覚情報の影響が大きくなった.これは,各情報の強さがそれぞれの場面における信頼性によって変化し,重力方向知覚における影響力が決定されていることを示唆している.以上の結果は,査読付き学術雑誌に論文として2編投稿され受理された.また,これらの実験結果を基にして,前庭・体性感覚情報と視覚情報の統合特性を示すモデルを構築した.この成果は,学会において口頭発表された. 研究分担者の曽根原登は,以上の知見を生かすような高齢者に向けたデジタル情報サービスについて情報収集を行い,高齢者の認知特性や生活状況に応じたサービスの検討を行った.
|