研究概要 |
本年度は, 放射光近接場赤外分光を行うための原子間力顕微鏡(AFM)用のアパーチャー付探針の評価と近接場赤外スペクトル取得の評価を中心に行った. 市販のAFM用探針から本研究に適合するような針の形状を有するものを数種類用意し, その針先端に大きさ, 形状が異なるくさび型微小開口を収束イオンビームにより穴あけ加工を行った. 穴あけ加工を行った針を用いてAFMとして動作するかどうかを, ストライプ状のくし型金電極の金表面と基盤との段差を観測することで確認した. その結果, 空間分解能などの性能は悪化するが, 本研究の近接場赤外分光で必要とする空間分解能である1マイクロメータは十分に達成できていることを確認した. しかし, 探針の先端近傍に開口を作製したことで, 針のどの位置で原子間力を感じて動作しているかが不明なところがあり, AFM像と開口位置での分光イメージングにずれが生じる可能性がある. これを解決するためには, 金ストライプのような標準試料での同時測定を繰り返し, 原子間力, 分光イメージングの位置相関を今後確かめる必要がある. 近接場赤外分光とそのイメージングの評価は, 大型放射光施設SPring-8の赤外物性ビームラインBL43IRでおこなった. BL43IRにおける赤外顕微鏡の空間分解能は約10マイクロメータであるが, このビームを作製した探針のくさび開口の上面に照射し, 約1-3マイクロメータに縮小し微小開口先端で近接場を発生させた. この近接場を用いて金ストライプの分光と空間イメージングをおこないその評価をした. その結果1マイクロメートル程度の空間分解能が得られ, 本研究で目標とした波長限界を超えた赤外近接場によるスペクトル取得が達成できたことを確かめた. これらの結果を踏まえて, より空間分解能を向上させるために微小開口プローブから金属探針先端での近接場発生が次の課題である.
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